あの日、私はいつものように家でドラマを見ていました。
お風呂から上がったばかりの母は化粧品を塗っていました。何気なくその様子を見ていると、ふと母の体が右側に傾いているのに気づきました。
「お母さん?」と声をかけると、返事がごにょごにょとしたかすかな音で、言葉が明瞭ではありません。
近づいてみると、母は何かを一生懸命伝えようとしているのに、声がうまく出ないようで、顔はこわばってる。
横に寝かせようとすると体が固まっていて動かない。何かがおかしい。
このままではまずいと思いながらも、頭が混乱していました。私はただ必死にどうしたらいいのかを考えていました。すぐに救急車を呼ぶべきだったのに、まずスマホで「脳梗塞」と検索してしまいました。冷静な判断ができず、手が震えながらも110番に電話をかけ、「声が出ない、体が固まっているんですが、タクシーで病院に連れて行った方がいいですか?」と尋ねました。オペレーターの方が「すぐに救急車を向かわせます」と言ってくれて、少し安心しました。
救急車が来ることをお母さんに伝えると、「トイレに行きたい」と言われましたが、体が動かないためどうしていいかわからず、洗面器を使ってなんとか対処しました。私は必死でした。テレビからは月9ドラマの主題歌が流れていて、その曲は今でもあの日を思い出させるので、できれば聞きたくないと思っています。
救急車が到着し、近所の人たちが心配そうに見守る中、お母さんを担架に乗せて救急車に運び込みました。車内では、お母さんの足をさすりながら、ドラマのように「お母さん、しっかりして!」と叫ぶわけもなく、意識もあった母とは、泣き笑いのような状態で、私たちは言葉を交わしました。
病院に到着すると、私は待合室で他の患者さんの家族と一緒に待ちました。その間、家族や職場に連絡を取り、事態を伝えました。30分ほどして呼ばれ、医師から「お母さんは脳出血です。今後はリハビリが必要で、これまでのように歩くことは難しくなるでしょう。言葉も出にくくなります」と告げられました。その言葉を聞いて、私は深い絶望感に包まれました。
入院手続きを済ませ、夜遅かったため帰るように言われました。一緒にいたいと思いましたが、「帰りなさい」と母に言われ、仕方なく家に帰ることに。
あの日から、母は新たな人生を歩み始めました。そして、私の人生も大きく変わりました。ドラマではない現実が、そこにはありました。